大動脈瘤について③

院長の水野です。

以前の病院に勤めていたとき下肢静脈瘤とともに専門としていたのが大動脈瘤(胸部大動脈瘤、腹部大動脈瘤)になります。

今回は3回目で大動脈瘤の治療とそのタイミングについてお話します。

◆大動脈瘤の治療のタイミング 

 大動脈瘤は、自然に小さくなることはありません。放置して瘤が拡大すると破裂の危険性が高まり、破裂すると命を落とすことがあります。薬などでは治すことができませんから、大きくなる兆候がみられたら、破裂する前に予防的に治療することが必要です。

 治療方法は、瘤の大きさや形、患者さん自身の年齢などを考慮して決定されます。右の表はあくまで目安ですので、詳細は主治医の先生とよくご相談ください。

大動脈瘤の治療

 大動脈瘤が小さいうちは、保存的治療といって、薬を服用したり生活習慣を改善することで、大動脈瘤の拡大や破裂を予防します。具体的には、下記のような方法があります。

 ①薬を使って血圧を下げたり、脈拍数をコントロールしたりする

 ②生活習慣を改善(禁煙指導や生活習慣病の管理)する

 ③画像検査を定期的に行い、瘤の大きさや大きくなる速度を確認する

 保存的治療を行っている間に痛みなどの症状がみられたら、主治医に相談してください。

  瘤が破裂する危険が出てきたら、人工血管置換術が行われます。これは、大動脈瘤または大動脈解離の箇所を、人工血管に置き換えるものです。病変部と置き換える人工血管は、血管の正常組織と直接縫合して固定します。

 手術は全身麻酔で行います。開胸または開腹して、血管を切り離し、人工血管と置き換えます。瘤の位置によっては、人工心肺を用いて、一時的に血流を止めての手術が必要となります。手術後はリハビリと経過観察で、約2週間から1カ月の入院が必要です。

負担の小さい血管内治療(ステントグラフト内挿術)

 動脈瘤の破裂を予防するもうひとつの治療法が、ステントグラフトの留置です。ステントグラフトは、金属の網目状の筒に人工血管を巻きつけた器具です。使用前は圧縮された状態で、カテーテルの中に収納されています。これを脚のつけ根の動脈から挿入し、折りたたんだステントグラフトを適切な場所で展開して、瘤内に内張りを施す、というのがこの治療です。

 ステントグラフトは、金属バネが開く力と血圧によって血管内壁に張りつくので血管壁への縫合が不要です。瘤は残りますが、瘤にかかる圧力が減るので破裂を防ぐことができます。時間が経つと、瘤は縮小することがあります。

 切開するのが両側の足のつけ根のみで済むことがほとんどのため、治療翌日から食事や歩行ができます。高齢の人や、以前の手術のために腹部や胸部の癒着が予想される人でも、治療が可能です。

 ステントグラフトを設置する手術は、全身麻酔もしくは局所麻酔で、鼠径部を切開し、X線透視下で血管内を確認しながら適切な位置に入れていきます。人工心肺が必要になることはありません。

リハビリと経過観察での入院期間は3日から1週間です。異物反応で3~4日間くらい発熱することがあり、最低3日は入院をお勧めしています。

 次回は大動脈瘤の治療の進化について解説します。

なお今回の内容は名市大ブックス9いのちを守る高度専門医療~東部医療センターの挑戦の中で私が執筆した内容を簡単にしたものです。ご興味のある方はそちらもご参照ください。

大動脈瘤の治療タイミング
人工血管置換術
腹部大動脈瘤ステントグラフト内挿術
胸部大動脈瘤ステントグラフト内挿術
実際のステントグラフト